■今回はいい機会なので初歩的なことも伺いたいんですけど、TRIPLE AXEの3バンドの共鳴ポイントってどういう部分なんですか。

MAH「なんだろうな……でもずっと不思議なのはHEY-SMITHなんだよね」

猪狩「え、なんでよ!(笑)」

MAH「TRIPLE AXEが始まった2012年を思い返すと、日本では依然メロコアのシーンが強かったでしょ。SiMの場合は日本の中で ノンジャンル過ぎたから帰る場所を作るためにも誰かと一緒にやりたかった。coldrainも足場になるシーンがない状態だったから。 俺らがハマるのはわかるんだけど」

■マキシマム ザ ホルモンがラウドミュージックの地図を塗り替えていた時期とはいえ、SiMやcoldrainのように2000年代のポスト ハードコアとリアルタイムに共振しているバンドの土壌は少なかったですね。

MAH「そうそう。でもHEY-SMITHにはメロコアのシーンがあったから、わざわざTRIPLE AXEを一緒にやらなくてよかったじゃん って思うのよ」

猪狩「いや、HEYも疎外感あったよ! たとえばスカのイベントに出たら、ンチャンチャ言ってみんな踊ってるわけ。でもHEYの場合、 ホーン隊はいるけど根っこはゴリっとしたパンクやから、スカのシーンでは『踊れない音楽』になるの。かたやメロディックのシーン では、正当なメロディックパンクと受け取ってもらえなくて。結果、ようわからんバンドと捉えられてハミ出てる感覚があって。 でもSiMとcoldrainには、名前を残してやるっていう本気を感じてたから。そこは3バンド共通してるんじゃない?」

Masato「メロディックが強い日本のシーンの中で弾かれ者だったからこそ、席を奪いに行けると思ってたね。わかりやすいのが 『京都大作戦』で、あのフェスは俺らが倒したい世代の塊でさ。10-FEETやROTTENGRAFFTYやホルモンって、ヘヴィな要素も パンクも混ざってて、メロコアでもラウドでも勝ち続けてたでしょ。それにホルモンくらいヘヴィなバンドでも売れるのなら、コミカルな 要素を抜いたストロングスタイルでも闘えるんじゃないかって考えてたのが俺らの世代だと思うんだよね」

MAH「そうだね。まだ土壌のない音楽をやってる自覚があったからこそ、個々が成功するにはどうしたらいいのかアイディア 出し合ってた感じだよね。一緒に成功しようぜ!っていうより、個々のアイディアを話しながらお互いを牽制してる、みたいな(笑)。 既に成功したバンドがシーンを誇示するために一緒にやるのとはまったく違うんだよ」

■よくわかりました。そして今回の『15MANIAX』について伺っていきます。去年はTRIPLE AXE名義で多くの夏フェスにも 出演されていましたし、それ自体がトリッキーで面白いと思って拝見してたんですが、今回15人1バンドとして作品を発表するに 至った経緯はどんなものだったんですか。

MAH「元々はコロナ云々と関係なく今回の話は始まってて。一昨年のTRIPLE AXEツアー終わりで『来年はどうしようか』って 話をしたんだけど、WARPED TOURみたいにトラック型ステージで夏フェスに乗りつけて、3バンド合体でライヴしようか!っていう アイディアが出たんですよ(笑)。フェスを乗っ取るにはどうしたらいいだろう?って考えてて」

■基本が「乗っ取ろう」なのがヤバいんですけど。

MAH「迷惑な話だよね(笑)。でも俺らは基本的に、むちゃくちゃするためにフェスに出てるようなもんだから。フェスのメイン ステージくらいなら15人全員で出るのも可能じゃない?っていう話になった記憶がある」

猪狩「でも俺は、最初ビックリして。TRIPLE AXE全員で一気にやるなんて俺の想像が追いつかなかった。そもそもの話、 この関係性があまりに長過ぎて、TRIPLE AXEを自分のバンドのように思っちゃってるから(笑)。仕分けもないし、『いずれ一緒に 曲を作るんやろうな』っていうのはどこかにあったのよね。だから結果としては、今回もHEY-SIMTHで曲を書くのと違わない テンションで楽しめた気がする」

■Masatoさんは?

Masato「KORNやLimp Bizkitがやってた『Family Values Tour』で2バンド合体するステージは観たことがあったから、 俺個人はアリだと思ってた。……でも蓋を開けたら、15人1バンドっていうのは本当に難しかったな(笑)。音楽的にも物理的にも」

■MAHさんはなぜ、3バンド一気に演奏するアイディアが出てきたんですか。

MAH「TRIPLE AXE TOURは2012年に始まったけど、一昨年は海外でもライヴできたし、規模的にも大小やり尽くした感があった のね。でもTRIPLE AXEは常に新しいことをやりたい場所だから、次にやるならTRIPLE AXE名義でのライヴしかないと思って。 そもそもTRIPLE AXE名義で曲を作りたいなっていうイメージは元々あったから、曲を作るなら先にライヴだなと。SiMで言えば、 『THANK GOD, THERE ARE HUNDREDS OF WAYS TO KiLL ENEMiES』を作る時に考えてたことと一緒で、バンドが一周して 気づいたら倒す敵がいなくなってて、じゃあ何する?っていう状態だったんだよね。だからこそ新しいことを求めて、一緒に曲を作る アイディアに繋がった気もする」

Masato「そうだね。coldrainで言っても、これまで俺らだけが叶えられていなかったのが主催フェスの開催で。でも今年 『BLARE FEST.』できたことでようやく3バンドが肩を並べて確立できたから。じゃないと、普通のスプリットじゃなくひとつのバンドで 楽曲を作るなんてできないからね。もっと言えば、3バンド合体してオリジナル楽曲を作る試みっていうのは、それぞれの活動の スタンスにも通ずるものだと思うんですよ。新しい方向に逃げていくスタンスっていうか」

■というと?

Masato「さっき話したみたいに従来のシーンにそもそも居場所がなかった3バンドだからこそ、まだ誰もやってないことを先にやって 人の想像を塗り潰してやろうっていう発想が根付いてるんだよね。シーンの中で勝つのはもちろん、その先で自分達だけの場所を 作るっていうことこそ、パンクとかがやってきたことの本質だと思うしさ」

■居場所を自分達の手で作ることこそが本当の自由なんだということは、今作の楽曲でも歌われていることですよね。 で、それは結果としてコロナ以降にバレた人間の喧騒に対する物言いとしても非常にクリティカルだと思ったんですが。

MAH「今年楽曲をリリースする人は必然的にコロナ以降の状況を踏まえた歌を書くんだろうなと思ってたけど、 俺は『辛いけど頑張ろうぜ!』みたいな歌は書けないと思ったんだよね。それ以上に、苦しいけど俺らは変わらないよっていう 気持ちでいたから。帰るシーンがないところから始まった俺らだからこそ、時代がどうであれ新しい場所を作っていくっていう…… その姿勢が歌に出た結果、そう聴こえるのかもしれないね」

■日本のラウドミュージックの中でもさらにオルタナティヴな位置から始まってシーンを耕してきたことを証明するような、 狂気的なミクスチャーの4曲ですよね。“SiLENT WAR”のイントロひとつとっても、ニューメタルなフレーズの上をさらに ホーンが飛んでいき、ドラムンベースとポップパンクを経由してレゲエも入ってくる。そうそう聴けない構造になっていて。

Masato「3バンドでやりましたっていう感覚より、ひとつのバンドになれてる作品だよね。各バンドの色が前に出るっていうよりも、 ちゃんと混ざれてる。俺らでしか作れない音楽になったと思う。それにTRIPLE AXEは世間というよりロックシーンに対して闘ってきた ところもあるから、今のシーンに贈る曲っていうイメージが最初にあって。同じことを繰り返して進化がない現状、いろんなことに 慣れ切ってしまうシーンに対してのアンチは今年特に感じてたしさ。いろんなことに慣れ切っていたからこそ、それがひっくり返った 時に人は混乱していたわけでしょ。だけど何もないところからスタートした俺らだから示せるのは、慣れることなく常に新しい場所を 作り続けるっていうことだと思ったんだよね」

猪狩「……俺は何も考えず適当に楽しんでたけど(笑)。歌詞もMAHとMasatoに任せてたし。自分で作った“ALL FOR NOW”も 含めて信念は込めたけどさ」

MAH「猪狩が書いたのって<tonight>くらいじゃない?」

猪狩「ははははは! それはそうです(笑)」

MAH「猪狩の送ってくれたテーマが『今は未来のためにある』みたいな内容だったから、Masatoが <all for now now for tomorrow>っていうところを先に作って。で、俺はその言葉をさらに解釈して…… 『今は未来のために』っていう言葉を『過去のすべては今のためにあった』と捉えたんだよね。そこから、自分達の過去を 思い出したりTRIPLE AXEを振り返ったりしながら、煮え切らなかった時期も今に繋がってるんだっていう歌になってきて。 結果として、どんな障害があっても壊して進んでいくっていう生き方のスタンスの歌になったという」

Masato「でもさ、俺もMAHもテーマに関して大して話し合ってないのに、不思議と足並みが揃ってるよね。“15MANIAX”は 特にそうだと思うし」

MAH「Masatoが言ってたように『ロックシーンの上の世代を倒す』っていうテーマが出てるのが“15MANIAX”じゃん。 Masatoが歌う<神々に挑むというのは/憶説を超え可能性に抗うということだ>(和訳)っていうところとかは、俺らに通ずる テーマだと思うし」

Masato「まあ<神々に挑む>とは書いてるけど、ダイヴしてるヤツらが何人いるか、みたいなところで先輩を負かそうとしてたのが 昔で(笑)。今振り返るとしょうもない目標だったけど、結局俺らがやってきた闘いっていうのは、意外と単純な目標の積み重ねだった 気もしてさ。J-POPのフィールドでも聴かれるようにするとか、カラオケで歌われるようなアーティストと同じステージでフェスに 出てやるとか……人から見たらしょうもないんだろうけど、でもそういう闘いは俺らに限らず、人それぞれにあるものだと思うのね。 だから、自分達の過程をそのまま歌にするのは、世の中のいろんな人に重なっていくことだと思ってて。たとえば学生が俺らの歌を 聴いたら、学校から社会に出る場面で自分のアイデンティティを見直すような場面に重なるだろうし、それも闘いじゃん。 いつでも居場所を作るのは自分だっていうのは、社会がどうであれ変わらないメッセージだよね」

猪狩「ただ、SiMもcoldrainもHEY-SMITHも曲作りの方法がまったく違うから、曲ごとにいろんなことを考えられるのも 面白かったな。俺が作った“ALL FOR NOW”の場合はメロディもそのまま持って行ったけど、“15MANIAX”の場合は バンド演奏だけでY.K.Cが持ってきたから、わからへん!ってなって(笑)。MAHとMasatoがフックを入れてくれてようやく曲の 全貌が見えてくるようなところがあった。しかもホーンセクションを入れるところをあらかじめ決めて曲が作られてて。当然やけど、 曲の作り方が違うと自分のバンドの武器もまた違った形になるのが面白かったなあ」

■“15MANIAX”がY.K.Cさんの作曲で、“ALL FOR NOW”が猪狩さん。“SiLENT DUB”と“SiLENT WAR”がMAHさんの 作曲ですが、一緒に曲作りをすることで、お互いの音楽的な個性をより深く理解できたりもしたんですか。

猪狩「それはあった。Y.K.Cの音楽は理論的で、音の隙間を音色で緻密に埋め尽くしていくんですよ。でもMAHの曲は、 音よりも歌で隙間を埋めていくの。コーラスひとつでも、重ねる声質や和音が異様に多くて。普通なら2和音でいいんじゃね? って思うところも、3和音に加えてユニゾンが入ってたり。声の入れ方で曲のグルーヴを作ってるのが面白かったな。俺の場合は 上ハモか下ハモしか入れないし、足すよりも引いて、潔くドンといくのが好きなんやけど」

Masato「わかる。猪狩の曲は、バンドを始めたくなる感じだよね。バンドをやりたい!っていう気持ちが純粋な形で出てる。 楽器を持って1ヵ月くらいの子が聴いたら、この曲コピーしたいって思う気がするなあ」

猪狩「おお、嬉しい!(笑)」

Masato「平たく言えば簡単ってことだけどね」

猪狩「えええええ?」

Masato「(笑)よく言えば、本質的なロックバンドのよさが出てる。逆にMAHの曲は、何やってるかはわからないんだけど、 いろんな要素が凄くリズミックな形で出てくるよね。たとえばヒップホップの人やクラブミュージックの人が聴いたとしても気持ちよく なれる感じ。レゲエのグルーヴが入ってるからこそだろうし、MAHはヘヴィなジャンルもリズムで解釈してるところがあるんだろうなって 思った」

MAH「なるほどね」

Masato「たとえばY.K.Cの作った“15MANIAX”は本来数学的な曲だったんだけど、MAHが<make it better, better>の リフレインをイントロに乗せてくれたことで曲がグルーヴィになって。“ALL FOR NOW”のラップは、MAHの強烈なフロウがあった からこそ、俺はRage Against The Machineを聴き続けてから録音して。リリックが<1999年の事だった>から始まるのは、 その当時の音楽を聴き続けて研究してたからっていうのが大きいと思う。MAHの特長によって引き出してもらったものはたくさん あったかな」

MAH「俺はごく自然に“SiLENT DUB”と“SiLENT WAR”を書いたけど、みんなに驚かれたんだよね。“SiLENT DUB”と “SiLENT WAR”のホーンの音階は一緒なのに、それぞれ当たるコードが違うところにみんながビックリしてて。俺は和音を理論的には 考えてない人間なんだけど、それはなんのコード?みたいな会話がされてるのを見て、根本から曲の考え方が違うんだなって実感した。 だからこそ俺は、それぞれの曲の定石を『歌』でどう壊すかを考えてて。 “15MANIAX”のイントロは楽器でバーッと埋め尽くされてたんだけど、どう考えても歌あったほうがよくない?と思って。 “15MANIAX”の大きい譜割の部分も、それだけじゃなあと思って、階段で下がっていくコーラスを足したし…… 俺は声も音として使ってる感じだよね」

Masato「極めないとわからないY.K.Cの曲と、何を混ぜてるのか一見ワケがわからないのに圧倒されるMAHの曲と、 バンドやりてえっていう高揚が出てる猪狩の曲と。その個性が全部混ざってるよね」

■というか、音楽的な性格の説明がそのまま、それぞれの脳内の厄介さの種類の説明になってる気がしました。

猪狩「ははははは。でも、アウトプットは違えど音楽の根っこは大体一緒な3人なんですよ。俺はスカばっか聴いてるわけじゃないし、 パンクもメタルもミクスチャーも大好きで。逆にMAHは古いスカバンドにも詳しかったりするわけで」

■それは世代なのか、音楽の精神性センサーが近いっていう話なのか。

MAH「たとえばニューメタルで言っても、MasatoはLINKIN PARKに影響を受けてるけど、俺はLINKIN PARKよりもKORN、 Limp Bizkit、Deftonesで。猪狩はRage Against The Machineがいいでしょ?」

猪狩「うん、ニューメタルっていうより、もっとメタルなほうがいい(笑)。同じ世代で音楽を体感してきたけど、それぞれの円が 丸ごと被るんじゃなく少しずつ重なってるよね。そのズレが各々の違いになってるんやろうな」

Masato「その上で、バンドとして何を押し出して伝えようとしているのかっていう精神性の部分では嗅覚が似てるよね。 伝えたいことが近いから、お互いの嗅覚も理解できるっていうか」

■自分達が変わらず伝えたいこととは、言葉になりますか。

猪狩「俺の場合は、多くの人に聴いて欲しいっていう気持ちが少なくて。人ありきで作ると俺の思うロックとは違うものに なってしまうし、なんでも好きなようにやればいいっていう気持ちを音楽にしてるだけで。常に、バンドを始めた頃の17歳の 自分に『どんな自分になりたかったんやっけ?』って確認してる感覚があって。本当になりたかった自分の姿は、バンドを 始めた頃の自分しか知らないから。17歳の自分に『好きにやりや』って言える自分になりたいのは変わらないし、結局は 自分の青春に対して歌ってるだけなのよね」

Masato「元々は『メッセージを込めたい』っていう気持ちから始まってるわけじゃないんだよね。特にcoldrainの場合は、 カッコいいからヘヴィな音楽を選んだだけだし、自分にとって自然な形として英語で歌い始めただけで。 でも日本の音楽カルチャーでは『ヘヴィな音楽は受け入れられないよ』って言われて育ったからさ、好きなものは好きで 貫いていいじゃん!っていう抗いが根強いんだと思う。そういう気持ちが自分を鼓舞する歌になってきたんだろうし、 それも闘いだよね。俺らが鳴らしてるのはレベルミュージックでありラウドミュージックではあるけど、『反政府であろう』みたいな 型もなくてさ。この前もガソリンスタンドで偶然ファンの子に会ったんだけど、俺を見て『上京してきて、 自分の夢は俳優になることでーー』って一生懸命話してくれて。そうやって人を鼓舞する音楽で在り続けたいなって思う」

■まさにファイトソングだし、何かを諦めそうな自分に立ち向かうことが実は一番過酷な闘いですよね。15MANIAX”には <人は皆孤独だと唄ってきた/だが不思議と俺の恐怖が吹き飛ぶのがわかるんだ/俺は“あの頃”に戻ろうとは思わない>(和訳) というラインがあります。SiMに“We’re All Alone”という曲があること、社会的に言っても孤独を共通言語にする向きが見えやすい 昨今であることも含めて、その真逆をいくような言葉が出てきたのはどうしてだったのかを聞きたくて。

MAH「元々俺が“We’re All Alone”を書いたのは、coldrainの“We’re not alone”に対して勝手にアンサーしたのがきっかけ だったから、この機会に引き合いに出そうと思ってて。当時は『人は孤独だけど、孤独だと思わせないでくれる誰かと出会えれば いいな』っていう願いを歌っていたのね。で、やっぱりこの3バンドが揃うと孤独感が吹っ飛んで無敵感があるんだよなあっていう ストレートな感情が出てきてさ。ライヴもできなくて自分達のバンドですら動けてないし、孤独を共通言語にしたい人の気持ちも わかるけど、それでも俺らは変わらずに在り続けるぜっていう歌かな」

Masato「まあ……孤独は確かに色濃く見える世の中かもしれないけど、“We’re All Alone”って、本当に友達がひとりもいない ヤツだったら逆に歌わない言葉だと思うんだよね(笑)」

MAH「はははははは!」

Masato「“We are not alone”っていう言葉のほうが願望のような気がするし、俺のほうが実は根暗っていう説はある(笑)。 で、俺は音楽でまさにそこと闘ってんのかなって気はするけど……」

猪狩「暗っ!(笑)」

Masato「いや、そういうもんだと思うよ(笑)。一見明るいヤツでも心の中は暗いとか、明るくなりたい願望で明るく振る舞ってる だけの人もいるじゃん。ステージで叫びまくってる俺も、普段はアッパーと真逆な人間だから。だけどそんな人間でも 『お前こっちに来いよ』って叫べるようになるのが、俺らの好きな音楽の力だと思うんだよね」

■まさに。ラウドロックと呼ばれる音楽の本質って、騒ぎたい気持ちでも陽性のエネルギーでもないですよね。 「明るい」「暗い」とか、「生きたい」「死にたい」みたいな倒錯した感情を、矛盾したまま丸ごと許容する寛容さが叫びに なっている音楽だと思います。

MAH「今はコロナの状況も含めて個々が闘ってるけどさ、政治なり人なりっていう敵を作るんじゃなく、最終的には自分のまま 在り続けるのが一番強いことだと思うのね。ラウドとかパンクとか、レベルミュージックにもいろんな形があるけど、それらは決して 敵を攻撃するための音楽じゃなくて。もちろん攻撃してくるヤツは全力で潰すけど(笑)、そうじゃないなら、先に自分達だけの 居場所を作って、愛する仲間と過ごしたほうがいい。その基地を作って守るための音楽がレベルミュージックだから。 パンクやロックは一般的に攻撃的なものだと思われてるけど、その本質は究極の防御なんだよ。パンクスがスパイキーな髪型で 鋲ジャン着るのも、お前を刺してやるっていう意味じゃなく、『気安く近づくなよ』っていうことで。大事にしている生き方に 簡単に踏み込むなよっていう一線の守り方がパンクやロックなんだよね。距離感を間違えて傷つけ合わないために、自分の 大事なものを認識して、信頼できる仲間と居場所を作っていく音楽なんだと思う」

■それはどうして気づけたことですか。

MAH「バンドが『クラスター発生』みたいな言い方されてるのを見て、俺らは攻撃したいがためにライヴをやってきたんじゃないし、 自分達の居場所を守るためにやってきたんだよなって思い返したのかな。何かを傷つけるんじゃなく、居場所を守ることが今の レベルミュージックなんだと気づけた機会だったと思う」

猪狩「でもさ、俺が今ムカつくのは……野球とか格闘技とか、ガイドラインのもとではあるけど開催してるじゃないですか。 それ見てたら、声出したらアカンって言っておきながらもヤーヤーやってるでしょ。なのにこっち(ライヴ)は声出されへんし、 音楽の人達はちゃんとルールを守ってる。こっちが一番ルールを守ってるのに世間的にいろいろ言われるのがムカつくんですよ。 それに、黙っとけって言われて抑えられるものしか俺らは作ってこなかったのか?っていう悲観的な気持ちになっちゃって。 その辺りは、まだ気持ちの整理がついてないのよね。だから、居場所を守るのはとても大事やけど……正直、ルールに 従いたくない気持ちも出てきてる」

Masato「でも猪狩の話と逆になっちゃうけどさ、俺がアツいと思ってんのは、このシーンの結束力を世の中は知らねえんだな ってことで。自分達の好きな場所を守るためなら黙ることも厭わないっていう結束力とユニティが、俺らのシーンにはちゃんと あるんだよ。世の中はロックバンドやライヴハウスを落ちこぼれの場所だと思ってるだろうけど、俺らはルールを守れるし大事な 場所を守れるんだよ。その状況を大半の人が知らないってのは、逆に超ドープじゃん。自分達だけの遊び場を自分達で守れる なんて、それこそパンクの本質だと思うしさ。俺らが何万人集めてようが世間からしたらアングラなもので、だけどそこにはちゃんと 自治がある。俺らは『守れる』っていうことに胸張ればいいんじゃないかな」

■ライヴがないのは本当に苦しいけど、この3バンドが音楽として鼓舞できる気持ちはたくさんあるっていう作品だし、 それだけの狂気と強度がある。居場所がないシーンでどう闘ってきたのか、居場所がない中で人はどう生きていくのかっていう 3バンドの歩み自体が、場所とアイデンティティを取り上げられていく今に対しての武器になっている歌ばかりですし。

猪狩「うん、それは本当に嬉しい。でも……まだ答えは出ないかな。俺はほんまにライヴが生き甲斐やったから、それが 取り上げられちゃって絶望してるのが正直なところかなあ。このままいったらライヴっていう文化がなくなる不安もあるし。 純粋な正直者がバカを見る時代になってるけど、それじゃやり切れんとこがあるからさ」

MAH「そうだね。……今まで通りに戻れるかはわからないけど、ならば新しい居場所を作れたらいいし、 そのための作品を作れてよかったと思う」

http://musica-net.jp/

interviewed by 矢島大地(MUSICA)

Copyright © TRIPLE AXE. All Rights Reserved.